共感とは | 共感定義
最新心理学事典「共感」の解説きょうかん共感empathy(英),Einfu¨hlung(独)共感とは,他人の気持ちや感じ方に自分を同調させる資質や力を意味する。
すなわち,他人の感情や経験を,あたかも自分自身のこととして考え感じ理解し,それと同調したり共有したりするということである。
その結果,ヒトは他人のことをより深く理解することができる。
定義については,澤田匡人(1992)によると,20世紀初頭にドイツの哲学者リップスLipps,T.(1903,1905)が,芸術に心を揺り動かされる(美を享受する心の感動)プロセスをEinfühlung(感情移入)の概念を用いて説明し,心の中で他人と自分を融合する心理学概念として,広義にとらえたことが始まりと考えられている。
その後,アメリカでティチェナーTitchener,E.B.(1909)によってempathy(共感)へと訳されているが,類似した用語であるsympathy(同情)が,悲痛や失敗など困難な経験やネガティブな状況にある他人を心配する感情に限定されるということで,ポジティブな意味合いでも用いられる共感とは区別される。
ヒトが他人の気持ちを理解しうるのかということに関して,個人の感情を別の個人が推測することは可能であるが,それは主観が別の主観を解釈しているに過ぎず,正確である保証はない。
このように共感という心理プロセスからは,曖昧性を排除することが難しいが,心理学ではこれを哲学的な人間性humanityの基礎にあるものとして理解しながら,大きな三つの流れで研究を行なってきた。
①哲学あるいは現象学的な流れを受け,ヒトが共感することの意味を探究。
それを基にヒトの理解に役立てようとする人間学的心理学や臨床心理学の立場。
②進化的な考え方を主とし,共感という情動システム(モジュール)や対人認知システムの発達に注目する発達心理学,進化心理学,社会心理学の立場。
③ヒトの脳やホルモンが,共感という能力を作り出すメカニズムを解明する神経心理学や脳科学の立場。
【臨床心理学における共感】 臨床心理学の立場からは,ロジャーズRogers,C.R.(1975)のカウンセリング理論の中核をなす共感的理解がある。
元来,カウンセリングにおけるクライエント理解には,二つのプロセスが並行して存在すると考えられる。
一つは,カウンセラー(治療者,あるいは援助者)がクライエント(相談者,あるいは利用者)について,診断的に客観的な事実や情報を収集する知的(外的)なプロセスである。
他の一つは,クライエントが経験している心の内容を,カウンセラー自身もクライエントと同じ立場で感じ(共感し),あるいはカウンセラー自身の経験などを参考にして主観的にとらえるという感情的(内的)プロセスである。
臨床心理学において,前者にウエイトをおく伝統的精神分析学では,報告された過去の事実(幼児体験など)が重視されるが,後者ではクライエントが抱いている現在の感情やカウンセラーの共感感情が治療の中核とされる。
ロジャーズによる共感とは「セラピストが,クライエントの内的世界を,あたかも自分のものであるかのように感じ取る」こととされ,その経験が治療を促進すると考える。
このように,他人の気持ちや考えを共有し同調する共感こそが,治療に必須な条件であると考えられている。
【進化心理学における共感】 進化心理学では,ヒトが共感システムをどう獲得してきたのかが検討されている。
すなわち,系統発生的には,原モグラが樹上生活する原猿(=サル)への進化過程で,環境の変化や捕獲者による脅威に対して,生存や防衛のシステムを改善しながら環境適応を果たしてきたが,最初は樹上にニッチを見つけ,昆虫や樹脂を食資源として利用した。
その後,果実や葉を食用とすることで身体を大型化させ,危険がいっぱいの地上に降りた。
そうして捕食者に対抗する防衛手段として進化させたのが,集団行動であった。
集団は個体間にストレスを発生させるが,これを低減し,親和行動を促進させるために発達させたのが,多様な情動である。
また,身体の大型化に伴って脳の容量も増加し,他の個体の心を読みとる認知システム(心の理論theoryofmind)が進化した。
こうして霊長類は,ダンバーDumber,R.I.M.とバートンBarton,R.A.(1997)が仮
すなわち,他人の感情や経験を,あたかも自分自身のこととして考え感じ理解し,それと同調したり共有したりするということである。
その結果,ヒトは他人のことをより深く理解することができる。
定義については,澤田匡人(1992)によると,20世紀初頭にドイツの哲学者リップスLipps,T.(1903,1905)が,芸術に心を揺り動かされる(美を享受する心の感動)プロセスをEinfühlung(感情移入)の概念を用いて説明し,心の中で他人と自分を融合する心理学概念として,広義にとらえたことが始まりと考えられている。
その後,アメリカでティチェナーTitchener,E.B.(1909)によってempathy(共感)へと訳されているが,類似した用語であるsympathy(同情)が,悲痛や失敗など困難な経験やネガティブな状況にある他人を心配する感情に限定されるということで,ポジティブな意味合いでも用いられる共感とは区別される。
ヒトが他人の気持ちを理解しうるのかということに関して,個人の感情を別の個人が推測することは可能であるが,それは主観が別の主観を解釈しているに過ぎず,正確である保証はない。
このように共感という心理プロセスからは,曖昧性を排除することが難しいが,心理学ではこれを哲学的な人間性humanityの基礎にあるものとして理解しながら,大きな三つの流れで研究を行なってきた。
①哲学あるいは現象学的な流れを受け,ヒトが共感することの意味を探究。
それを基にヒトの理解に役立てようとする人間学的心理学や臨床心理学の立場。
②進化的な考え方を主とし,共感という情動システム(モジュール)や対人認知システムの発達に注目する発達心理学,進化心理学,社会心理学の立場。
③ヒトの脳やホルモンが,共感という能力を作り出すメカニズムを解明する神経心理学や脳科学の立場。
【臨床心理学における共感】 臨床心理学の立場からは,ロジャーズRogers,C.R.(1975)のカウンセリング理論の中核をなす共感的理解がある。
元来,カウンセリングにおけるクライエント理解には,二つのプロセスが並行して存在すると考えられる。
一つは,カウンセラー(治療者,あるいは援助者)がクライエント(相談者,あるいは利用者)について,診断的に客観的な事実や情報を収集する知的(外的)なプロセスである。
他の一つは,クライエントが経験している心の内容を,カウンセラー自身もクライエントと同じ立場で感じ(共感し),あるいはカウンセラー自身の経験などを参考にして主観的にとらえるという感情的(内的)プロセスである。
臨床心理学において,前者にウエイトをおく伝統的精神分析学では,報告された過去の事実(幼児体験など)が重視されるが,後者ではクライエントが抱いている現在の感情やカウンセラーの共感感情が治療の中核とされる。
ロジャーズによる共感とは「セラピストが,クライエントの内的世界を,あたかも自分のものであるかのように感じ取る」こととされ,その経験が治療を促進すると考える。
このように,他人の気持ちや考えを共有し同調する共感こそが,治療に必須な条件であると考えられている。
【進化心理学における共感】 進化心理学では,ヒトが共感システムをどう獲得してきたのかが検討されている。
すなわち,系統発生的には,原モグラが樹上生活する原猿(=サル)への進化過程で,環境の変化や捕獲者による脅威に対して,生存や防衛のシステムを改善しながら環境適応を果たしてきたが,最初は樹上にニッチを見つけ,昆虫や樹脂を食資源として利用した。
その後,果実や葉を食用とすることで身体を大型化させ,危険がいっぱいの地上に降りた。
そうして捕食者に対抗する防衛手段として進化させたのが,集団行動であった。
集団は個体間にストレスを発生させるが,これを低減し,親和行動を促進させるために発達させたのが,多様な情動である。
また,身体の大型化に伴って脳の容量も増加し,他の個体の心を読みとる認知システム(心の理論theoryofmind)が進化した。
こうして霊長類は,ダンバーDumber,R.I.M.とバートンBarton,R.A.(1997)が仮